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"とらうま"を抱きしめて [サマリー]

2007-03-21(Wed)春分の日
■【山桜】と競技会デビューを無事果たしてきた。
いまその意味の重さをひしひしと感じる。
と同時に、デビューのために尽力して下さった方々への感謝の気持ちも
改めて深くなっていく。

■2005年4月、乗馬を始めて8ヶ月目。
私は「下手クソの最低、危険人物でクラブ出入り禁止、どんくさいオバさんはいくらやってもうまくならない」と情けなさで胸が張り裂けんばかりの状態だった。
もともと運動神経は鈍く、体力気力も不足ぎみ、中年太りに差しかかりいい所は何もなかった。
2005年2月の103鞍目に起きた落馬。
かかった【山桜】から落ちたのだった。
手ひどい打撲からようやく回復したところで、今度は2件続けての馬の転倒事故。
「またあんたか」という突き刺さる視線が痛かった。
罪悪感からクラブに足を踏み入れることのできない状態が続いた。
「どんくさい私だとクラブや馬に迷惑をかけてしまう」
「やっぱり、スポーツは苦手なのよね」
当時、サービスが始まったばかりのブログで乗馬日記を書き始めたものの
すぐに更新停滞、意気揚々とブログ公開したことを悔やんだ。
■「落馬して怖くなったので」
「落馬して止めちゃった人の話はよくあるし」
「骨折や半身不随になるリスクもある」
「しかも、乗馬はお金もかかるし」と乗馬をやめる体裁のいい理由は沢山あった。
劣等感と挫折感と自己不全感と馬の大きな動きに対する恐怖で、身を引き裂かれるような思い。
そして、それを覆い隠すように
「やっぱり無理」「高望み」「取りあえず初級までいったのだから」と
あきらめ、言い訳して合理化し、些細なことにしてしまおうとする自分もいた。
■でもね、そんな時。
「きっと駆歩できるようになるから」
「私と同じような人がいるなんて、驚き」と
ブログにコメントしてくれた方々がいた。
最も傷ついて苦しんでいる時に、届いた声。
涙が出て止まらなかった。
そして、
「ここでやめたら挫折した経験のままだ」
「死ぬまで『昔乗馬をしたけどやめた』という思い出話だけしかできない」と
思えるようになった。
 ー やめるわけにはいかない ー
上達する保証は何もなかった。
「落馬してから怖くてダメなんです」と言ってみたところで、特別なレッスンがあるわけでなくトラウマを自分で直してく術を探らなければならなかった。
ブログは「おばさんが下手なまま悪戦苦闘する記録」
「さらなる挫折に向けての実録」になる覚悟で続けることにした。

■自分に対する自信のなさ、馬の大きな動きへの恐怖は、
「リラックスして馬の動きについていく」という乗馬の基本を完璧なまでに阻害した。
口の悪い教官に、
「やるべきことはもう教えたんだから、あとは気持ちの問題」と苦笑された。
年若い教官には、
「どうしてできないのか理解できない」とばかりにダメ出しされた。
この時ばかりは「お金を払ってまで自尊心を踏みにじられるなんて」と感じた。
そして、ようやくわかってきた。
「誰か私を助けて」
「どうすればうまくなるか手取り足取り教えて」と他力本願でいることの不毛さを。
■自分ができる所まで戻って納得するまで乗ろう。
「〜ができた」と喜ぶのではなくて、
「ああ、こういうことだったんだ」という気付きを大切にしようと思えた。
時を同じくして、天翔る馬のような気持ちのいい乗り心地を名馬たちからプレゼントされて「もう一度この乗り心地を味わいたい」と強く望むようになった。
■馬の手入れがメインで、騎乗はビギナークラス。
「あの素晴らしい乗り心地をもう一度」とそれだけを暗闇の先の光として続けてきた。
詳細は、ブログの騎乗記録の通り。

■【山桜】とは落馬の打撲傷が治った時点で、
「あんな危険な馬をどうしてクラブは置いていくのだろう」とか
「新馬あがりの馬に乗せるのに新米のインストラクターがつくなんて」と
クラブの対応を批判がましく思ったのだが、
馬自体を非難する気持ちにはなれなかった。
「危ない馬はお肉になっちゃえ」とちらりとかすめた考えを慌てて取り消して、
「私がもう一度乗れるようになるまで、絶対に!! 待っていて !!!」
「どこにも行かないでいてね !!」と馬房の前で語りかけていた。
■とは言え、「暴走する、物見して走り出す」という話を聞けば、
「やはり危険な馬だったのだ」と自分の落馬を正当化してしまうし、
同じ部班レッスンに彼が出てくれば「一緒のレッスンはいやだなあ」とつぶやく。
【山桜】を濃い色眼鏡で見ていたことは否めない。
■「そろそろあの馬にも乗ってみませんか」
「軽い扶助で駆歩が出るし、一定のリズムで走ってくれるからいい馬よ」と
言われだしたのは1年半後。
いまだに駆歩でのバランスが悪く、普通の馬では駆歩の継続が難しかったのだ。
何かの都合で配馬の入れ替えがあった時に【山桜】にあたった。
そして、どの馬よりも騎手のバランスの悪さに耐えて
駆歩を続けてくれる彼に驚いた。
【山桜】のおかげで駆歩を続けていられる、斜めに手前を換えができてしまうことに感謝した。
ようやく関係修復。
彼を目の敵にようにして距離を置いてきた自分と決別。
103鞍目の落馬は、心の棘としての形を失って単なるひとつの出来事になった。
■400鞍目の騎乗が【山桜】に本格的に乗りだす端緒だった。
「もちぇさん、競技会に出てみませんか?」と4%先生に声をかけられたのだ。
先の運動会できちんと経路も踏めない状態だっただけに、
「いつかリベンジをしなくてはいけないだろうな」と思っていた。
「私は楽しんで騎乗できればそれで十分」という台詞をつい使いたくなるが、
そのなかには卑下や逃げという毒が含まれている。
競技会まで6週間しかない。
3月中旬、卒業式の頃になる。
「これが私ととらうま君との卒業式になるんだろうな」という予感もあった。
■以後は【山桜】とペアを組んでの練習となった。
一日ふた鞍なら【山桜】と他の馬になる。
扶助に敏感で身体が柔らかい彼は、自由自在に動いてくれる魔法のような馬だった。
さらに4%先生が下乗りをして下さって効率的なレッスンになるよう最大限の配慮をいただいた。
扶助に対する馬の反応がきちんとわかる状態になっているので、
馬をまとめる感覚とか、ハミを追っていく手綱の感じとか、
歩度の詰め伸ばし、収縮した状態などこれまでとは次元の違う学びをさせてもらった。
日々【山桜】と接していると、疲れてボーとしていたり
行くぞ行くぞとハイテンションだったり同じ馬でも微妙に違う。
また、私自身が馬に感謝しながらも段々依存心が芽生えて、些細なことに不安感を抱いたりと騎乗者としての心の揺れも経験できた。
馬の鼓動を聞く経験も忘れがたい。
大きな心臓。ハートとハートが響き合う。
■「競技会に出るのはレッスン10鞍分の価値がある」
「競技会の成績より、その日に備えて頑張ったことに意義がある」と
諸先輩に言われていた。
馬運車でいつもと違う場所に移動し、人も馬も正装をしてと
普段と違うハレの世界。
いうなれば成人式とか結婚式のような〈通過儀礼〉なのだ。
確かに競技会を終えて、自分のクラブが懐かしいわが家のように思えてきたし、
他者の視線にさらされて【山桜】と自分が一歩一歩を進めていく以外にないと
強烈に感じた。
4%先生に最後まで調整をしていただいた【山桜】はこれまでで最高の乗り心地であったが、準備馬場から本馬場へは誰も助けてはくれない。
馬に乗せていただくのではなく「馬に乗る」という自覚。
そのとき自分はどうするのかという何十回となく繰り返されるシュミレーション。
やり直しのきかない本番をどこまで精緻に組み立てられるのかが、問われる。
デビュー戦では「50% がとれればいいな」と密かに思っていたので、
今回は望み通りの結果になった。

■結局、とらうまって
「誰か何とかして」と思っている間は、肩にずしりとのしかかって身動きを封じてしまうものないかもしれない。
「負けてばかりいられない何とかしなくちゃ」と自分の足で立ちあがってみて、初めて何とかできそうなところとかちょっと軽くなりそうなタイミングとかが見えてくるんじゃないかな。
あいも変わらず下手だが、それでもここまで来れたことは
私の大きな財産になった。

 だって、挫折した経験のままに終わらせなかったのだもの。

 馬に乗っていてよかった、続けてよかった。

 私のとらうま君【山桜】を心から抱きしめて、ありがとう。



441鞍目 いつもと変わらず [第11章 初級競技会挑戦編]

 2007-03-19(Mon) 初級クラス116 通算441鞍目
■競技会で使った馬具の手入れやら【山桜】のご機嫌伺いにクラブに顔を出す。
4%先生は昨日の激務にも関わらず、いつもどおりの勤務と聞いて
自分だけ「本日骨休み」とは言えない。
■本日は【霧丸】さまで3騎部班。
【ヴィーヴルロア】と【アレフ・ゼロ】が一緒。
競技会場から自分のクラブに戻ってくると「ああ、わが家だ」とホッとする。
何があったとしても自分のねぐら、安心できる場所なのだ。
かつて、馬場に水たまりがあると言っては進めなくなり
広い馬場に各個で出たらどうしたらいいかのかわからず、
多頭数の部班だと怖くて硬直していた過去の自分が遠くに感じる。
■レッスンでは、いつもと変わらず。
【霧丸】の駆歩発進にもたつき、速歩に落とされる。
「もちぇさん、もっと手綱を長めにして駆歩して」
「前傾しない!」「頭がもっと後ろ」と注意される。
ちっとも進歩してないじゃないの〜 
■ひとつ変わったことと言えば、
「もちぇさん、踵下げ過ぎです」
「脚をもっと引いた位置で真直ぐに踏みましょう」と言われたこと。
踵下げ過ぎの注意は、初めて受ける。
しかも「脚をもっと引け」とは如何なること?
これまでの「脚をもっと前で使って」と注意されていたことの逆である。
よく分からん。
まあ、これから気持ちも新たに少しずつ駆歩を良くしていかなければなるまい。

■クラブのフロントで、昨日の競技会のジャッジペーパーを受け取る。
ふむふむ、4点がついたのは主審の入場停止で「4肢そろわず」のところと、
副審の推進気勢のところ。
反面、審判二人ともが手綱を伸ばした常歩に6点をくれている。
そうなのだ、ここは自信があった♡
主審はなんと左右の手前の輪乗り駆歩にも6点をつけてくれた。
駆歩に6点がつくなんて望外の評価だ。
■所見では、駆歩からの下方移行のポイントずれや歩幅の伸展が不十分と
いつも注意されている所が「やはり」指摘されている。
練習では経路を間違えずに回れれば十分という気分でいたので、
次からの課題が今回の指摘された所になるんだろうな。
道はまだまだ続くらしい。


デビュタント 競技会を楽しむ編 [第11章 初級競技会挑戦編]

 2007-03-18(Sat) 第41回県馬術選手権大会
■自分の演技が終わって馬も馬房で一休みになり、ようやく回りが見えてきた。
まずは急にお腹が減る。
朝から固形物が喉を通らなかったのだ。
介添え役に来て下さったAチーム隊長がおにぎりを差し入れて下さる。
青菜に梅干し、程よい塩気がものすごくおいしく感じられる。
午後に本番を迎える方々は、あんまり食べると中身が出そうだからと軽くつまんで水分補給する程度。
やはりベテランでもむしゃむしゃ食べられないのだなあ。
スタックルームは馬房そのままなので、ホコリがすごい。
人は最低限、馬優先の世界なのだ。
■ふと、隣の別のクラブの様子を伺うと
「皆さん、今日のお弁当です」
「お食事はあちらで取っていただくことになってます」
「ここに今日のプログラムと記念品があります、後でお渡ししますね」
「〜さんはまだおいでになってないですか?」と
まるでツアーコンダクターのような口調。
馬に乗る時も介添え役の人が「どうぞお乗り下さい」と丁寧にアテンド。
〈体験乗馬:一日競技会編〉という訳でもなかろうに…
■クラブごとでもカラーが違う。
クラブ名の入ったそろいのジャンパーに、
キャプテンだとか○○ちゃんとかネームを入れていたり。
大きな外馬にエクセサイズシートをかぶせて馬を一番に扱っていたり。
いろいろ…
■ちなみに我がクラブは、
「おとなしい」
「有閑マダムのお上品クラブかな」と言われてしまった。
確かに粗野な下郎のいるクラブではないけれど… ちょっと複雑な心境。

■午後は、我が【山桜】が3課目に出る。
乗り手はベテランの方なので、もう何の心配もなく観戦できる。
他にも2頭エントリーしていて4%先生は相も変わらず忙しそう。
【山桜】は外馬の迫力には負けるものの(だって細身のサラブレットだから)
無理なく無駄なく滑らかに経路を回る。
「いい馬だなあ、素敵だなあ」と親ばか丸出し。
今年で7歳になる彼の昔を知っている人が、
「【山桜】は成長しましたね〜、
昔は何かって言えばビュンと暴走して大変だったんですものね〜」
そうです、ついこの間まで鏡に映る自分の姿を怪しみ、対向馬の姿に驚き、暴走する馬としてデンジャラス扱いされてましたから。
■2課目3課目ともに50エントリー近い数をこなして、
ようやく競技も4課目5課目と終わりに近づく。
この頃には緊張感も解けてなくなり、埒にもたれて馬や乗り手の品評会やうわさ話会に花が咲く。
私のように人間の競技会デビューもあれば、馬のデビューもある。
慣れない環境にソワソワびくびくして膠着したり後退したり跳ねたりぶつかったり。
春の陽気に誘われて「ブヒヒーン」と鳴き交したり。
いつもと同じ万全の状態で運動ができるとは限らないのだ。
■午後2時も過ぎて(朝8時開始だったから)ようやく成績が発表になる。
掲示板に張り出された一覧表に皆が集まる。
あった! もちぇ@【山桜】50%を越えている!
50%以上ということは、どこかに6点がついているはず♪
嬉しい〜 どこかに4点がついてもそれをカバーする6点があるはず。
デビュタントとして合格点だと思う。
3課目では【山桜】が3位、なんと58%越えてます! 
やったよ、君はやったよ !!
次の競技会からは【山桜】は引っ張りだこになるだろうなあ。
■満ち足りた気分で帰り支度を始める。
演技の終わった馬たちのたてがみをほどき、
足を洗いブラシをかけておやつの差し入れ。
ようやく馬上から開放された4%先生は、ものすごい勢いでパンをほおばっている。
「食べる時はいくらでも入るんです」との談。
持ち寄ったおにぎりパン、チョコにクッキーとテーブルに広げられた食料を食べ尽くして、荷物整理。
馬たちのブーツを履かせたり、馬着を着せたりして帰り支度。
馬房掃除組と荷物運び出し組に分かれて作業。
4%先生は、馬運車を仮厩舎に乗り入れて馬たちを乗せ始める。
お利口に乗り込む馬と踏ん張って嫌がる馬。
それでも難なく馬と荷物を積み込んで、撤収完了。
■夕方の冷たい風が吹く前に「気をつけて」と馬運車を見送る。
ふう〜、終わった。
来た道をのんびり戻る。
高速道路なのに100Km/hr以下の安全運転。
今日はゆっくりお風呂に入って休むことにしよう。
ホコリだらけで汚れた衣類と馬具の手入れは明日にまわして、
布団に倒れ込む。


デビュタント 競技場編 [第11章 初級競技会挑戦編]

 2007-03-18(Sat) 第41回県馬術選手権大会 馬場馬術競技第2課目2004


 速歩入場:むこうに心配そうに眺める4%先生

■4%先生の下乗り後、【山桜】を馬房で休ませることになった。
腹帯を緩め寝転がらないように無口をかけておく。
「ちょっとだけ、おやつね」と氷砂糖をあげるとボリボリ噛み砕く音がする。
さあ、自分の用意の最終チェック。
オーバーパンツを脱ぎハットもかぶる。
【山桜】のよだれで汚れそうだったので、正装にコートだけは着たままで
白手袋はポケットの中。
(そうだ、4%先生は折り返しを使わなかったけれど
私の場合は使うべきなんだろうな)
(何も言われなかったけれど…)
(くう〜、ねじれずにきちんと折り返しをつけられるだろうか?)
(大丈夫かな? これでいいのかな?)
ふと見ると時計のデジタル表示は9:08
(ウソ?! もうこんな時間)
(15分までに連れて来てと言っていたはず)
クラブの関係者は皆馬場の方にいるので、自分で判断ひとりで行動になる。
(うわ〜、強い風で馬房まわりがバタバタ音をたてているよ〜)
(【山桜】が驚いたりしませんように)
馬房を出て準備馬場まで引いていく。
途中、細い道ではよそのクラブの馬がやってくる。
(いやん、避けられない)
幸い向こうの方には、こちらがド素人とわかったらしく笑顔で「どうぞ」と道を空けてもらえる。
(よかった〜ほっ)
準備馬場の入り口には多くの人が集まっているので、どこをどうぬけていけばいいのか皆目見当がつかない。
貫禄のあるおばさまから、
「3課目の競技をやってるんだから馬場の近くにいないで、
馬が驚いたりするでしょ」とお叱りを受ける。
(申しわけございません)
ようやくクラブのお仲間に声をかけてもらう。
「もう乗る?」「手伝うよ」
(どうすべきかの指示がないのでわからないのですよ〜)
「15分に準備馬場に来いと言われたのですが、
3課目の演技が終わらないとここを通れないし…」とちょっと情けない声。
「4%先生はどちらですか?」と求むるは頼るべきもの。
「準備馬場で乗ってるよ」
(こうなれば、準備馬場に出て馬に乗って先生の指示を仰ぐしかない!)
行く先はコロセウム! ステージに上がるのみ !!
■【山桜】が侍従のようにおとなしく控えていてくれたおかげで、
自分の心の揺れを収めることだけに専心できた。
お仲間も何人も集まってきて、
「この台使って乗って」「前もっているから大丈夫」
「鐙革の長さはこれでいい?」
【山桜】の緑のよだれがついた手を「このタオル使って拭いて」
「はい、コート預かるね」
「長靴拭くから、鐙脱いでみて」
「オッケー、頑張ってね」と皆で送り出してくれる。
勇気100倍 !!!
探す間もなく4%先生が馬に乗ったまま近づいてきて、
「じゃあね、常歩で蹄跡を歩いていて下さい」
「はい!」
「長鞭は1周したら置いちゃっていいですから」
よっしゃー、準備馬場だ! 最も肝心の準備馬場だ!!
【山桜】の常歩がズンワズンワと柔らかく大きい。
馬の後肢の動きに私の座骨がピタリとはまる。
まるで異種間関節だよ、これは!
■この時点で心細さも疑念も怖さも霧散して、気持ちのいい【山桜】と私の世界。
知らない馬がびゅんびゅん走り回る準備馬場なのに、
【山桜】は私のこうしたいと思うとおりに動いてくれるとわかっているから、
ちっとも怖くない。
「常歩で」と言われていたが、私が馬に乗るのは今日これが初めて。
速歩や駆歩の動きについていけないと困ると考えて、あえて速歩にしてみる。
いやいや、なんて乗り心地のいい速歩。
一歩一歩が柔らかいから、しっかり座骨のうさぎ跳びで前へ前へと動ける。
手前を換えて、他の馬の邪魔にならない空間を見つけて左手前駆歩発進。
よっしゃあ!一発で決まる。
「よし!」と【山桜】を愛撫してお仲間の待つ馬場の隅に行く。
「すみません、私の出番っていつごろですか?」
「次だよ」
「へっ?」見るとエントリーひとつ前の方が3湾曲している。
長鞭を預かってもらって、軽速歩でエンジンの回転数を上げていく。
■「もちぇ選手、乗馬は【山桜】、よちよち乗馬クラブ」とコールがある。
もうここからは、何度も頭の中でイメージしたもんね。
ベルが鳴る。
入場するまでのスペースが小さくて、
しっかり直線コースがとれないのが玉にきずだが、それもよかろう。
本馬場内には前の馬の通った経路がきれいな道になっている。
何だ、この通り進めばいいのだ。楽勝〜
入場停止時にちょっと斜めになったのと速歩発進で駆歩になりかけた以外は、
「行きませう、御意! 」と経路が進む。
斜線を常歩で進む時には「【山桜】見せておやり、君の美しい常歩を」と
ちょっと余裕も出る。
駆歩の歩度を伸ばす所では、万が一突き抜けたらやだなと思っておとなしめ。
最後の速歩で中央線に乗る頃には顔がにやけてくる。
「やった、やった、できた〜」
最後の停止敬礼は、思わずにっこり主審に微笑んでしまった。
「【山桜】ありがとう、ありがとうね」と馬場を退場。

次の演技がなんと4%先生。
「先生、頑張ってくださいね」と先生の姿にエールを送るゆとりまで出る。
■しかし、この後どうしたらいいんだろう?
肝心の先生は演技中。
お仲間に相談すると
「取りあえず終わるまで常歩で準備馬場を回っていればいいんじゃない?」
他の人馬の邪魔にならないよう最外周をゆっくり常歩する。
普通なら長手綱でリラックスだが、万が一を考えて手綱は持っておく。
おや、ポニーがいるんだ。
いつもうちのクラブに来る装蹄師さんが待機しているだ。
あらあ、あの不安定な軽速歩は私と同じデビュタントなんだろうな〜
いままで目に入らなかったものが、見えてくる。
ようやく4%先生の演技も終わり、
「次は午後なので馬装を解いて休ませてあげて」と指示をいただく。
■無事終わった〜 満足。
馬房に引き上げる途中に応援に来ていた方々から、
「落ち着いていたね」
「よかったよ〜」
「きれいに乗れてましたよ」と声をかけていただく。
心の底から「おかげさまで」と頭が下がる。
■馬房で馬装を解いて「本当にありがとう」と【山桜】に感謝する。
持ってきていた黒砂糖ブロックを一度に2個3個と大盤振る舞い。
クラブの他の馬にもお裾分け。
ハットも手袋も外して、長靴も脱いでようやく一息。
ああ〜楽しかった、幸せ〜♡


デビュタント 待機編 [第11章 初級競技会挑戦編]

 2007-03-18(Sat) 第41回県馬術選手権大会 
■一週間まえからチェックを入れていた天気予報。
日曜日は今期一番の冷え込みになること確実。
急激な寒冷暴露では体調管理が難しいし、革製品は寒いと固くなるし…と不安材料てんこ盛り。
頭勒や手綱などは最後にもう一度脂分を補給してよく拭き取っておく。
【山桜】と私をつなぐ大切な道具だから、
しなやかでしっくり馴染むものであってほしい。
など、強迫症にちかい心境。
寒冷対策用のプレスサーモ衣類やマスクと抗アレルギー関連常備薬、フラワーレメディ、おっと忘れちゃ行けないニンジン&黒砂糖ブロックと準備物品が増える。
■馬具一式基本的なものはクラブで運んでくれるから、
競技会用の服装で本人が遅刻せずに来れば問題ないと言われるが「きゅー」と心配になる。
白キュロット、白手袋、ハット、ショージャケット、長靴、長鞭、拍車、アスコットタイにピン。
汚れないように直前までオーバーパンツとコートを羽織っておく。
今回新たに購入したのは、ブーツジャックとシニョン用ウィッグ。
ハットをかぶる時は髪をまとめてシニョンにするのだが、長さや毛量が足りないと貧相に見える。
そこに付け毛を足すとあっという間に横顔が鹿鳴館風に仕上がる。
下手クソだからこそ「見た目だけでも気を使いました」と頑張る。
■現地集合は朝7時。
余裕を見て起床したはずが、あれこれ準備しているうちにギリギリになる。
すっきり晴れ上がった早朝の高速道路を120km/hr 以下に落とさないよう走る。
これならば距離数の半分の時間(分)で到着できると計算しやすい。
それにしても、芽吹く前の木々のシルエットに朝陽が差し込んでこの上なく美しい風景が続く。
■順調に到着するが、一緒に参加される皆さんは既に到着済み。
集合時間の20分前なのに…
クラブごとに割り当てられた馬房=スッタクルームに荷物を運び込んで、指示を仰ぐ。
まずは馬の準備から。
「おはよう【山桜】、今日はよろしくね」
昨夕にクラブのスタッフに編んでもらったたてがみをお団子にする作業。
たてがみテープは? はさみは? ゴムは? と一頻り探しまわる。
ほこりだらけで時間に追われての細かい作業は、やり難い。
経験豊かな先輩に手伝ってもらえて本当に心強かった。
「最初の出番の馬が終わったら【山桜】の下乗りしますので、それまでに準備を」と言われて、馬着を脱がせブラシをかけてお支度。
せっかく前日ピカピカに磨いておいても、オガとホコリまみれ。
しかしシリコンコーティングしておいた尻尾はさすがにさらさら。
束ねて振るだけで、はらはらとオガが落ちる。
「【山桜】今朝は冷え込んだけど平気だった?」
「馬運車の中は窮屈じゃなかった?」
「一緒に頑張ろうね」と思わず話しかける。
飼い桶に首を突っ込んで「いつもと変わんないよ」という雰囲気の【山桜】にこちらも落ち着く。
馬装を終えて「ちょっと様子を見にいってくるね」と会場へ。
■準備馬場ではオープン参加のプロの方々がすごい勢いで馬に乗っている。
うわっ、ガンガン走らせて、ガツガツ速歩に乗っている。
2課目競技の馬場は、障害用の広い馬場に鎖でしきって作ってある。
なんだか小さく見える。
駆歩の歩度を伸ばしたら突き破って場外に出てしまいそう。
A点の方から馬場の正面を眺めて自分の中で想定経路を踏んでみる。
ここで輪乗り、タンタンタンタンと速歩入場、停止、敬礼〜
タンタンタンタンっタンタンッ隅角〜 とリズムよく
ぱかぽこぱかぽこと常歩〜
たたたん,たたたん,たたたんと駆歩〜
最後の半巻き乗り、中央線、G点まで頑張って停止、にっこり敬礼♡
「よし!ひと続きの音楽♪になっている」「おっけー」
途中で途切れず、頭の中に音楽が流れればいい感じ。
誰もいない馬場に向って一人宙を見ている姿は、ちょっとオバさんに似合わないかも。
■早朝なのにクラブから応援の方々も来て下さっていた。
良き先輩で今日のデビュタントの介添え役をしてくださるAチーム隊長。
なんとご主人も一緒。
ビギナークラスのご夫妻も。
さらには、同じ初級クラスのマダムもご家族連れてである。
なんだか心強い。
■取りあえず自分の荷物を整理して、手伝う仕事もなさそうだったので
応援席から観戦。
「いったい何時【山桜】を準備馬場につれていったらいいのだろう?」
「いつになったらハットや手袋をつけたらいいんだろう?」
目は競技を見ていても、腰を落ち着けてはいられずそわそわする。
はたと向こうの準備馬場に【山桜】の姿を発見!
あらら〜、クラブのどなたかが連れて行ってくれたんだ。
4%先生がぎゅんぎゅんに馬エンジンの回転数を上げている。
広い馬場を縦横無尽に走っている。
なんというテンション、なんというダイナミックさ。
競技前というのはここまでやるのだ、びっくり。
■馬の姿に見とれているうちに、
オープン参加での4%先生@【山桜】の演技が始まる。
「うふふ、やっぱり【山桜】はいい馬だ〜」
「ちょっと細身だけれど、つやのある毛並み柔らかな動き」
「先生のお姿も素敵」とひいき目全開。
速歩入場して停止の時にパタついたが、それ以外はお手本のような演技。
こんな風に経路を回ればいいのだ。
演技終了後、先生のもとに駆けつけると、
「あともう少し乗りますね、その後いったん馬房で休ませて9時15分に連れてきて」と指示される。
これ以降は私と【山桜】だけになる。
4%先生は他のエントリー馬の調整や競技参加になるから、もう頼れない。
「頑張ろうね」と自分に言い聞かせるように【山桜】に声をかけた。


440鞍目 真の【山桜】 [第11章 初級競技会挑戦編]

 2007-03-17(Sat) 初級クラス115 通算440鞍目
■今日は【アエラス】と2騎部班。
明日の競技会前、最後のレッスンとなった。
下乗りなしで騎乗。
最初から準備馬場のつもりで人のテンションを上げてとりかかる。
常歩では隅角を深く入ることに留意。
軽速歩、駆歩とエンジンは快調に回転数を上げていく。
ワンポイントレッスンは、斜線で速歩の歩度を伸ばす。
「隅角しっかり回せば馬が縮みますからね、縮むから伸びるんですよ」と4%先生。
レーキでかいた線が馬場の中央線とX点になっている。
やはり、はっきり進むべき先が見えると操縦しやすい。
■2課目経路の練習では、中央線がまるで道のように伸びて気持ちよく入場できる。
敬礼のポイントまで7歩か8歩。
これなら息つぎなしで走り込める。
停止は、やはり左右によれる。
「拳を開き気味に」「もっとどっしり腰を落として」と注意がとぶ。
次の蹄跡右折は深く回り、蹄跡も深く。
斜線は元気よく進んでくれる。
3湾曲もリズムがばらけてしまうのだが、なんとか。
長蹄跡歩度を伸ばすのは、ちょっとよれ気味。
斜線の常歩では手綱のピッチマーク4と半分まで伸ばせる。
ここの常歩での隅角通過を甘くならないよう気をつける。
「行くよ行くよ〜」の【山桜】を「まだまだ」と納めつつ駆歩発進すると、
乗り心地が変!輪乗りの外側に前肢が出ているのが見える。
「あれっ?反対?」
まだまだなんて、ごにょごにょやっていたから反対駆歩が出てしまったらしい。
「すぐ出し直して!」と声が聞こえる。
一旦速歩に落として、再度発進。
へ〜【山桜】でも反対手前を出す事があるんだ。
出し直しても、なんとなく走り難そうな駆歩。
斜めに手前を換えで速歩に落ちた。
ここは捨てて、次行こう!
左手前でも、斜めに手前を換えでやはり速歩に落ちた。
うーん、どこかスムースにいかない。
微かに引っ掛かる所があるのだ。
最後の速歩のG点までは何とかたどり着く。
■ダメだったところが沢山あるのだが、
私自身は(割と)元気のよい速歩に遅れず乗れて満足。
2拍子を8カウントで動くとだいたいパートの切れ目になるので、そこで息つぎ。
変な所で息つぎしないよう、座骨でうさぎ跳びしてついていく。
4%先生は「最後の経路練習だったのに」と言わんばかりの無言。
確かにここであれこれ注文つけても、もう本番が待つのみ。
「そうだよね、一発勝負でどこまで完璧にできるかなんだよね」と
「できないならできるまで何度もやらせて」と考えてしまう甘さを反省。
■「すこし乗りますね…」と4%先生のひと言。
無言の後の言葉に〈フォース〉のようなものを感じる。
乗り替わるとびしびしと馬の左右のストレッチが始まる。
何をどうしているのかまったくわからないのだが、
【山桜】の中からオーラがふわあと外にあふれ出すような雰囲気。
斜線を速歩で伸ばすと、なんと前肢が軽々と浮いて伸びている。
「すごい!!! かっこいい!!」思わず手をたたく。
真の【山桜】は、こんなすごい馬だったとは… 
■「じゃあどうぞ」
「(相方の)準備ができるまで少し乗ってていいですから」と渡される。
普段なら、邪魔にならないように片隅でちまちま乗るのだが、
あんなにすごい速歩を見てしまったら、私も速歩させてみたくなる。
エンジンが切れる前に乗りたい。
折り返しと手綱がきちんと揃える手間ももどかしくて、長蹄跡を速歩させる。
なんて気持ちいい乗り心地。
一歩は大きく動いてくれるのにドンドン跳ねることもない。
じゃあ斜線ではどうかな? と進めていくうちに3湾曲も。
速歩パートだけのつもりが、常歩はまあ適当にやって駆歩も出してみようかな。
駆歩もちゃんと収まる所におさまっている。
途中で鐙が脱げてもそのまま平気で乗れる。
速歩に落とせば自動的に鐙に足がはまる。
ええい、最後まで。
半巻き乗りして中央線G点まで。ちょっと手前で減速する【山桜】
「そこで拳の間隔広げて!」と馬場の向こう4%先生が叫ぶ。
おー、よれずに止まった。
■先生の指示にないことを勝手にやっているという後ろめたさを感じながらも、
これまでのうち最高の経験。
手綱も鐙ももたついたままだったのに、【山桜】はちゃんと走ってくれた。
「いいじゃないですか」と4%先生が声をかけて下さると
「はい!! 」と思わずガッツポーズが出る。
すごい馬に乗せてもらったのだ。
「順調な仕上がりで、よかった」とつぶやく先生に
「最後の走りは素晴らしかったです、もう本当にこれで充分幸せ」と応える。
■後は競技会への準備だけ。
明日一日窮屈な思いをする【山桜】とクローバーとレンゲの畑でプチ散歩。
鞍やお手入れ道具をまとめて荷造りする。
4%先生は、明日4時半に馬運車で出発するそうな。
冷え込む真夜中に起きて一日仕事になる。
なんたる激務。
ありがたいことである。
■不安を通り越して、楽しみ〜楽しみ〜♪
いろいろな人に会える。4%先生の競技姿も身近で見られる。
うきうきしてきた。


439鞍目 心臓の鼓動 [第11章 初級競技会挑戦編]

 2007-03-16(Fri) 初級クラス114 通算439鞍目
■昨日、予約を取る時にフロントに泣き言をいった。
「【山桜】でない馬に乗せていただけるようお伝え下さい」
私にとって【山桜】は唯一無二の存在であり、いつも助けられている。
必要不可欠の依存しきった状態だけに、
わずか一カ所でもうまくいかないと頼るものが無くなったような不安が生じる。
我ながらまずい状況に思えて「距離を置きたい」と考えるようになった。
「好きなのですヨン様、でも本当にこれでいいのかしら?
少し離れた方がいいみたい」と
古いメロドラマのような心境になってしまった。
■しかーし! 本日の配馬表にはきっちり【山桜】とある。
ええっ?と思うより「よかった…【山桜】だ」とほっとする。
「僕たちは離れちゃいけないんだよ」と引き止めてもらえたようなそんな気分。
■実は、明け方〈2拍子のリズム〉問題に思い至り、
「そうだ、リズムの基本はハートビートだっ」と思い付いて、
聴診器を持ってきたのだった。
【山桜】の脇腹に張り付いての心臓の鼓動を探す。
さすがのリットマンでも人の心音のようには聞こえない。が、
遠くに低くゆったりとした鼓動が聞こえる。
海の中のクジラのような大きな動き。
「おお【山桜】、君の心はそこだね」
お互いのハートが近くなったような不思議な気分になる。
■今日のレッスンは【ニジェールナイン】と2騎部班。
【山桜】は4%先生が下乗りして下さって準備万端整っての騎乗。
馬エンジンの回転数をむやみに下げないよう、こちらもテンション高めで乗る。
■今日の課題は〈駆歩での隅角通過〉
最初は輪乗り駆歩を一周。
2周目からは蹄跡との接点を手前に移動して、横につぶれた楕円軌道にしていく。
長方形の馬場の端で輪乗りをしているので埒の柵が蹄跡接点の目印になる。
目印の柵からひとつ手前の柵、ふたつ手前の柵と接点を移動させながら楕円の輪乗りを続けると、駆歩のリズムが崩れない。
「それでは次は短蹄跡中央を通過したら、
そのまま真直ぐパカランパカランと2歩走らせて…」
「(斜めに手前を換えの始点の)一つ手前の柵に向けて曲げてみましょう」と
指示が出る。
輪乗り駆歩から徐々に角度をつけて曲がる練習をしたせいか、
目標に向って駆歩を曲げていくのに無理がない。
「じゃあちょっと向こうで練習して」
自主練習で何度かやってみると、隅角を曲がるたびに手綱が余る。
余ったままだと気持ち悪いので肘を引いて弛まないようにしたいのだが、
そうすると止まってしまったりしないだろうか? 
心配になって4%先生に質問する。
すると「隅角通過は内方姿勢になりますから、馬が縮まって手綱があまるような感じになっても不思議じゃありません」
「その時は肘を引いて下さい」
「折り返しがきつくならないようにだけ注意して」との答。
「じゃあ、今度は斜めに手前を換えをやってみましょうか」
隅角通過で【山桜】が私の方にやってきてくれる限り、斜めに手前を換えるのも自在にできそうな予感がする。
いざ、短蹄跡中央から2歩直進、一本手前の目印に向けて曲がると、
【山桜】の首が私の方に近寄ってくるので、手綱が余らないように肘を引き気味にする。
なんだが馬があやつり人形になった感じ。
楽に無理なく斜線に滑り込む。
「なんて楽なの!すごい【山桜】♡」
「いいですね」と久しぶりに4%先生が歯を見せて笑っている。
かなり以前【ベル】の駆歩で感じた、
首が近くに来てコンパクトになった駆歩だと細かな動きでも楽にできるという感覚。
ぞわぞわと鳥肌ものの感動。
■「気持ちよくできた所で終わらせてもいいですか?」とヘタレ者の懇願に
「いい子だったから、ご褒美にゆっくり常歩させてあげて下さい」とお許しがでる。
ああ、今日のレッスン【山桜】でよかったなあ。
不安に駆られて逃げ出したくなったけれど、
あえて【山桜】に乗せてくれた教育的配慮に感謝しなければ。
■信頼って、健やかなる時も病める時もハートを寄り添わせる勇気のことなんだ。


438鞍目 息つぎはどこで? [第11章 初級競技会挑戦編]

2007-03-15(Thr) 初級クラス113 通算438鞍目
■今日のお相手は"いっしょに歩こう"【山桜】
【ベルベットシート】との2騎部班。
今週末の競技会出場予定の方とご一緒なので、予行演習という雰囲気。
輪乗りで軽速歩、駆歩でウォームアップした後、
宿題パートの練習。
隅角を深く回るとか、停止でよれないようにとか。
その後、経路を回る。
【山桜】は問題ないのだが、ちょっと私がエネルギー枯渇ぎみ。
「もっと元気よく」と言われる。
案の上、右手前での駆歩で速歩に落ちる。
体調は悪くないが心の奥で「しんどい」とつぶやく声がする。
その声に【山桜】が「無理せんとき…」と応えたような感じ。
乗っている人間の気力が萎えたら、馬は何を頼りに走ればいいのだ。
ちょっと気持ちがくたびれてきた。
そう言う時は、何も考えずルティーンワークをこなすに限る。
実行番号順に一つずつ、つぶしていく。
■鞍を磨いて鐙革の左右を交換。
頭絡もお手入れ。
そして【山桜】の首から上とお尻まわりをシャンプーする。
ふけが溜まっていたたたてがみをゴシゴシ泡立てて洗うと
気持ち良さそうに首をのばす【山桜】
尻尾はさらさらキラキラになった。
メンテナンスがきちんとできると心が落ち着く。

追記:
体調が不良というわけでもないのに、何で元気よくいかないのだろう? と
考えながら眠ると、目が覚めたベットの中で思い当たる。
速歩の2拍子にのれないのだ。
強弱なしのタンタンタンタン… 8拍くらいまでならついていけるのだが、
その後息切れ。
いったいいつ息つぎをすればいいのだ?
軽速歩や駆歩なら、強弱のリズムがあるのでふっと息が吸えて楽なのに。
速歩のリズムに乗れないと「んもー」と固まる私。
昔から、ラルゴとかパヴァーヌとかゆっくりズムが性に合っている。
ちょっと困った問題だ。


436/437鞍目 御意のままに [第11章 初級競技会挑戦編]

 2007-03-14(Wed) 初級クラス111/112 通算436/437鞍目
■このところ冬に逆戻りしたような寒さで、北西の季節風も吹き荒れる。
とは言え、日差しは春らしく力強い。
これまでより明るく輝いて、何かいいことがありそうな予感。
クラブでは「ケキョ、ケ」とウグイスの初鳴きを聞く。
すべて世はこともなし。
■本日ひと鞍目は、"あなたと同じ時を過ごせて幸せ"な【山桜】
レッスンの始まる前に準備運動を済ませて馬房で待っていた(らしい)彼は、
「いつでもオーケー」と言わんばかり。
引き馬から馬装、馬場での動きも非常にスムース。
「では参りましょう」「御意!」
後肢が私を運んでくれる気持ちのよい動き。
■レッスンは、経路であらの目立つポイントの練習。
前回速歩の反撞についていけずアワワ状態だった駆歩からの下方移行。
速歩に落とした瞬間に
「馬に速歩をさせてあげて!」
「そこでふわあと力を抜いちゃうのはダメです」
「鐙をグッと踏んで」
「馬が速歩なんだなとわかって速歩をはじめてから、人が体勢を整えましょう」
駆歩を止めるだけではなくて、速歩をさせると人が意識を持たないと
勢いに押し流されて馬なりになってしまうのだ。
■「あとは斜線を長手綱で歩かせた後の隅角がいい加減になっているかな」
自覚あり…
つい、手綱を持ち直すほうに意識が集中して適当に常歩させているのだ。
「隅角は馬を縮めるチャンスだから、
きっちり通らせるとその後の動きが良くなるんです」
隅角通過という採点項目はないが次の運動の質を決める重要なポイントであると、
以前教わったことを思い出す。
4本の紐を持ち直すのに多少時間がかかるとすれば、
斜線常歩を最後まで長手綱で歩かせてはいられない。
早めに気持ちだけも次の準備をはじめておくべきだろう。
■停止も「ぐいぐい、と、と、と」とピタッと決まってない。
「もっとグイっと座って」
「拳の間を少し広げる感じで」
「おへそを拳に近づけるように」
「腕に力を入れるのも必要ですが、まず小指薬指を握り込む所から」と4%先生。
実は、手前で止まるのはかっこ悪いし、通り過ぎて止まらないのも困ると
どこから停止の合い図を出そうかといつも迷っているのだ。
そんな気持ちが反映して、
こちょこちょとした曖昧な扶助になっているのだろうな。
自分の中の整理しきれないものが馬の動きになって現れるなんて、
困るけれどいい勉強になる。
■2課目経路の練習は、
「行こか」「御意」という感じで終始。
細かな所でまだまだ至らないところもあるのだろうが、
「しまった」「できない」「もう〜これじゃだめ」と思う所が一つもなく、
「トン、すう、たん」という単音節の扶助に従ってくれる【山桜】に感動する。
今日のひと鞍は【山桜】からのホワイトデーギフトなんだろうな。
しずかな満足感で私は一杯になった。ありがとう【山桜】

■ふた鞍目は【アレフ・ゼロ】
このレッスンでは相方が【山桜】に乗って2騎部班。
【山桜】の柔らかでスムースな動きに対して、
【アレフ】の骨張った動きが胸に痛い。
重い【アレフ】を拍車と長鞭を使って動かすのは、つらい。
「ああ、先走って邪魔している」のが自覚できるだけに自己嫌悪の悪循環。
■軽速歩をしていると手綱の手応えがふっと無くなる。
つないでいた手を振り払われるようないやな感じ。
4%先生に尋ねると、
「脚に対して手綱がきついので、ハミをはずす反抗をしているんでしょう」と
説明して下さる。
【山桜】に乗ると「はいよ〜」と気持ちのいい手応えが当たり前になっているだけに、馬がわざとハミを外してくる言いようのない感じに衝撃を受ける。
「そういう時は推進でしょうね」とアドバイスをいただくが、
推進が苦手なのだ、馬もつらいだろうが私もつらい。
■駆歩になるとかえって、楽になる。
【アレフ】は初心者クラスで駆歩発進を担当しているせいか、
すんなり発進維持してくれる。
おかげで「内方脚を前で」「拳は下に」という声に楽に対応できる。
今日は腰から駆歩についていけた。
■駆歩で斜めに手前を換えをやろうとすると、肩から逃げて曲がらない。
一旦停止させて4%先生が解説して下さる。
「外方を張って持った状態でもどんどん内方を引いていくと、
ほら、外方が引っ張られてハミがズレていくでしょ」
「こうなったら内方をそれ以上引いても無理ですから、
いったん緩めて、それからまた内方をひきましょう」
なるほど、ハミが口の中からずれるから馬は横滑りしたような動きになるんだ。
■常歩や速歩で隅角通過、巻き乗りをやって練習する。
外方手綱を張っておく、あるいはやや開き手綱ぎみにしておくと
ある程度までは内方を引いた時にずるずるとしない。
それでも内方引き続けるとハミのズレる気持ち悪い感覚。
これか!
こうなる前に内方を緩めてもう一度最初から。
「曲がらない」とグイグイとやり合っていた時に比べて、話が早い。
抵抗が少なく曲がってくれる。
「では先程の右手前の駆歩で斜めに手前を換えをもう一度!」
何の抵抗もなくレールの上を走るような滑らかさである。
■軽々と動く【山桜】の上に胡座をかいていると、
【アレフ】や【ベル】のような馬を動かせなくなる。
しかし【山桜】を通して教わったことが「あれっ?」と違う馬での気付きにもなる。
一日2鞍乗って、一頭はいつも同じ馬もう一頭はいろいろ違う馬という配馬は、
ものすごい効率的な練習になっている。
こんな練習をさせてもらえるクラブに感謝しなくては。


434/435鞍目 馬に向って開け [第11章 初級競技会挑戦編]

 2007-03-12(Mon) 初級クラス 通算434/435鞍目
■ひと鞍目は【ベルベット・シート】で【ヴィーヴ】と2騎部班。
自分の未熟さがよくわかる。
■ふた鞍目は"あなたはあなたのままでいることに価値がある"【山桜】
【山桜】は頑張って駆歩続けてくれるのだが、
駆歩にきちんと乗れていないことだけが、ありありとわかる。
「ああ【ベル】なら絶対速歩に落ちてる」という箇所が沢山ある。
「内方脚を前にして」と言われて「ごもっとも」と思う。
駆歩についていけないことが痛いくらい自覚できるのに、
ストンとはまる場所が見つからない。
「両方の脚を前にしてみて!」
「それでも馬は駆歩を続けてくれるでしょ」と4%先生が声を嗄らす。
そう、頭ではわかっております。
身体を後ろに置いておける一瞬に、馬が楽に前に出ていけるのを感じる。
これが続けられればいいのに、長蹄跡で歩度を伸ばす時ぐらいしかできない。
「悪く言えば、脚でつかまっているように見えるんですよ」
しかり…
「鐙に乗って!」
「いつも脚でぎゅうぎゅう押していると、
隅角で馬が内側に倒れてきた時に脚で押し込めない」
今日は、自分の腰(座骨)が馬についていけないことを痛感する。
駆歩の巻き乗りも【山桜】はやってくれるが、
私の身体が前屈みになって馬がつらそうなのがありありとわかる。
■経路の練習は「細かい所はいいので、元気よく」がテーマ。
入場の速歩からお尻が跳ねる。
「審判は人じゃなくて馬を見てますから気にせず」と4%先生の談。
つまり、跳ねないようにと速歩のスピードを落とすのは問題外。
〈馬のお荷物状態〉でさらに歩度を伸ばそうとすれば、鐙がはずれる。
グヘ〜、アワワ、おっとの連続で終了。
■とうてい無理なことだとわかっているが、
これまでのレッスンの中で一瞬のきらめきのように味わえた馬と一体になって走れる状態で経路を回れれば至福の境地だろうなあ。
元気よく動かそうとして動いてくれれば、ちっとも乗れない。
「【山桜】ごめんね」
元気よく動いてほしいのに動いてくれなければ、ひとり馬上で大暴れ。
「ごめんね【ベル】」
■私ひとりが何かをするんじゃない。
私が馬にどれだけあわせていけるかが問われているのだ。
〈あなたの目を馬に向って開け〉
〈あなたの耳を馬に向って開け〉
〈あたたの心を馬に向って開け〉


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